2010年 12月 01日
映画一揆『土竜の祭』12/3まで 「二年前」 冨永威允(「土竜の祭」制作)(再掲載) |
湿気が漂いはじめた外に出て、道路脇のテントの下にもぐり込む。
すぐ横の家屋の中では撮影が粛々と進んでいた。
何でそこにテントを立てたのか知らん。
もしかしたらもう雪が降っていたかもしれない。
とにかくそこで川口くんと対峙した時には、雪がちらつき始めていたと思う。
川口くんが仮でつくった日々スケを出す。とうてい不可能な。
二人で一本目のタバコに火をつける。
出来る訳がない。それを順序立てて、川口くんに話す。
「でも芝居でいったらこれしかないねんなあ・・・」
でも、そんなことは不可能なんだと、僕はもう一度同じことを繰り返す。
もう、川口くんは何も言わない。それでも、僕は何かを声に出さないといけない。
チェーンスモークがたたり、咳が止まらなくなって、僕は中の様子
をうかがいにその場を離れた。
撮影は終盤になっていた。もうこれ以上悩んでいる時間はない。
土竜の祭りは再編集された。そして、生まれ変わった。らしい。
でも僕はどうしてもそれをみられない。
みていると、未熟な自分が否応なくよみがえってきて、映画どころじゃない。
こんなに難産になってしまったのは自分のせいなんだという、
そのことに対する言い訳が、どこにも見当たらない。
テントに戻ると、川口くんが日々スケを書き進めていた。
最初のものとなんら変わらないかたちで。
クランクイン前から深夜のファミレス会議が続いていた。
連日のトラブルに疲れきった川口くんと佐野くんと僕。
そして吉岡さんと、少し遅れて桑原さん。
僕達の頭はもううまく回らない。
美学校の実習という企画の性質上、吉岡さんもあまり口を出さない。
そうなることが分かった上で僕達の泥舟に同乗して、
なんとか沈まない様に泥を塗り直してくれていた。
そうやって疲労が蓄積されていった。
川口くんは撮影を一日欠席し、
佐野くんは交通整理をしながら眠りはじめた。
僕は慣れない運転がさらに危なっかしくなり、正面衝突しかけた。
「危ない!」と叫んだ井土さんの声は、
気合いが入ったときの「ようい、はい!」よりトーンも音量も大きかった。
でもその日から、「心配だ」と言って、井土さんは僕の車の助手席に座り続けてくれた。
最終日の前夜、アテネの事務所前に車を集合させた。
「明日も早いし、もう今日はこれで帰ろう」
と早口で吉岡さんが言った。
多分僕は疲れていた。
でも、僕はその日もファミレス会議がしたかった。
明日で終わるなら朝まででも。もう今夜しか集まれない会議を。
「もう今日帰っちゃうんすか」
そう言うと、桑原さんがうれしがっているような、あきれたような顔をして笑った。
「土竜の祭」上映は12/3(金)まで 21:00より ユーロスペースにて
すぐ横の家屋の中では撮影が粛々と進んでいた。
何でそこにテントを立てたのか知らん。
もしかしたらもう雪が降っていたかもしれない。
とにかくそこで川口くんと対峙した時には、雪がちらつき始めていたと思う。
川口くんが仮でつくった日々スケを出す。とうてい不可能な。
二人で一本目のタバコに火をつける。
出来る訳がない。それを順序立てて、川口くんに話す。
「でも芝居でいったらこれしかないねんなあ・・・」
でも、そんなことは不可能なんだと、僕はもう一度同じことを繰り返す。
もう、川口くんは何も言わない。それでも、僕は何かを声に出さないといけない。
チェーンスモークがたたり、咳が止まらなくなって、僕は中の様子
をうかがいにその場を離れた。
撮影は終盤になっていた。もうこれ以上悩んでいる時間はない。
土竜の祭りは再編集された。そして、生まれ変わった。らしい。
でも僕はどうしてもそれをみられない。
みていると、未熟な自分が否応なくよみがえってきて、映画どころじゃない。
こんなに難産になってしまったのは自分のせいなんだという、
そのことに対する言い訳が、どこにも見当たらない。
テントに戻ると、川口くんが日々スケを書き進めていた。
最初のものとなんら変わらないかたちで。
クランクイン前から深夜のファミレス会議が続いていた。
連日のトラブルに疲れきった川口くんと佐野くんと僕。
そして吉岡さんと、少し遅れて桑原さん。
僕達の頭はもううまく回らない。
美学校の実習という企画の性質上、吉岡さんもあまり口を出さない。
そうなることが分かった上で僕達の泥舟に同乗して、
なんとか沈まない様に泥を塗り直してくれていた。
そうやって疲労が蓄積されていった。
川口くんは撮影を一日欠席し、
佐野くんは交通整理をしながら眠りはじめた。
僕は慣れない運転がさらに危なっかしくなり、正面衝突しかけた。
「危ない!」と叫んだ井土さんの声は、
気合いが入ったときの「ようい、はい!」よりトーンも音量も大きかった。
でもその日から、「心配だ」と言って、井土さんは僕の車の助手席に座り続けてくれた。
最終日の前夜、アテネの事務所前に車を集合させた。
「明日も早いし、もう今日はこれで帰ろう」
と早口で吉岡さんが言った。
多分僕は疲れていた。
でも、僕はその日もファミレス会議がしたかった。
明日で終わるなら朝まででも。もう今夜しか集まれない会議を。
「もう今日帰っちゃうんすか」
そう言うと、桑原さんがうれしがっているような、あきれたような顔をして笑った。
「土竜の祭」上映は12/3(金)まで 21:00より ユーロスペースにて
by eigaikki
| 2010-12-01 16:06